Halloween party




3.




俺と聖也は、とりあえず高橋と日向先輩と別れて徹の所へ向かった。

「おっ、海斗。これうまいぞ!」
「…あのなぁ…。急にいなくなるなよ…。」
「なんだ?俺がいなくて寂しかった?」

そうじゃなくて…。

「……お祭り好きな奴はほっとけ。」
「なんだぁ?上原。やけに突っかかるな〜。」
「そんなに突っかかってもないだろ…。」

それにしても、確かにうまそうなんだよな。
しかも和食から中華からイタリアンまでなんでも揃ってる。
一応ハロウィンパーティならそれらしいモンばかりだと思ってた。
例えばかぼちゃとか。

……他には思いつかない…。

「俺もお腹空いてきたな。なんか食べよう。」
「おー食え食え。」

いや、徹が作ったわけではないだろうに。
気持ちは分からないでもないけど。

とりあえず目の前にあったサンドウィッチを手に取ったとき、ガラガラ音を立ててワゴンを引きながら骸骨が近づいてきた。
もちろん仮装をした人だ。
骨が描いてあるTシャツを着てるだけだけど。

「こちらの飲み物はいかがですか?」

声は比較的若い男の人だな。

「………酒?」
「はい。」
「俺、一応未成年なんですけど。」

今更言えたセリフではないけど。

「今時の子は未成年でも結構飲んでるんじゃないの?」

“今時の子”って…。
この人、若そうに見えて実は結構年取ってるのかな?

「それは人によると思いますけど。」
「ま、せっかくのパーティーなんだから細かいことは気にしない気にしない。」

そう言って渡されたグラスに入っているのは、カシスオレンジだ。

「…さっき誰かも持ってたな、これ。」

誰かって、日向先輩だけど。
他にはないのか。
それとも未成年には皆カシスオレンジって、決まってんのか?
んな馬鹿な。

「では、よいお年を。」

そう言って骸骨は去って行った。
てか、年末じゃないし。

「なんなんだ。」
「皆仮装してんだな〜。俺達も何かしてきた方が良かったのかな?」

徹は何の躊躇いもなく仮装しそうだな。
むしろ楽しんでそうだ。
俺はぜひ遠慮したいけど。










「あれっ?鈴森?」

すごい勢いで料理を食べてる徹を横目にせっかくだから貰ったカシスオレンジを飲んでいたら、突然声と共に肩を叩かれた。

「ぶっ!」

驚きと突然の振動で、思いっきり吹き出してしまった。
あーあ…もったいない…。

「うわっ、汚いな。」
「誰のせいだと…。」

てか誰だ?
声だけじゃイマイチ判断できなくて、俺は口元を拭いながら後ろを振り返った。

そこにいたのはクラスメイトだった。

「……佐川?」
「おう。久しぶり〜。」

久しぶりって…。
普通に毎日学校で会ってるけど…。


佐川雅人。
彼とは二年の時に同じクラスになってからの付き合いだ。
すごい美人(男相手におかしいか?)のくせに中味は妙に男らしい部分があって、結構話しやすい奴。
部活は美術部で、確か二年になったと同時に部長に任命されたと聞いた気がする。
といってもほとんどが幽霊部員で、佐川とあと一人の後輩で活動をしてるようなものらしいが。

「佐川も招待状貰ったのか?」
「じゃなかったらここにはいないだろ。」

まぁ確かに。

「実際貰ったのは忍の方なんだけどな。」
「忍?」
「俺の後輩。」

そう言って指差した先には二人、いた。

「あれっ。あいつって山口真吾じゃん。」

さっきまで料理に食いついていたはずの徹がひょこっと話に参加してきた。
…まだ手には皿が乗ってるけど。

「なんだ、神林もいたんだ?」
「おう。ついでに上原もいるぞ。」
「ま、鈴森がいるんだからそうだろうな。」

………。

「それより徹。山口真吾って…。」
「なんだ、海斗知らないのか?俺達の一個下の奴で、主席入学した奴だぞ。ついでに弓道の実力もあって、あの容姿。ただとんでもなく愛想がないって噂だけど…。」

弓道ってことは…日向先輩の部活の後輩ってことか。
じゃあ佐川のいう後輩ってのはその隣にいる…。

「まぁ山口君の無愛想はある意味当たってるけど、ある意味外れてるね。」
「え?」
「彼、忍にはすごい自分を見せてるから。」

忍…。
あの子…だよな?
自分を見せてるって…?

「山口君は忍の前ではありのままの自分を出してる。実際はすごくかわいい奴だよ。」

そういって微笑むその顔がなんだかすごく…。
………。
なんか、佐川って…。

「すっごい分かりやすい奴だな。」
「え、何が?」
「………海斗は人のことにはすごい鋭いのなー…。」

徹の言葉はとりあえず無視だ無視。

「何でもない。で、忍ってのは…。」
「倉田忍。一個下の後輩。すっげぇいい絵を描くんだよ!」
「いい絵?」

それってうまいとかきれいとかそういう事なのか?

「何かな、ついマジマジと見てしまうっていうか、見る人を引き込むっていうか…。」
「へぇー…。」

そんな会話をしていると、倉田の方も俺たちに気がついたらしく、目を見開いてこっちを見ている。
…?
何に驚いてるんだ?

「あ〜、きっと噂の鈴森と神林を見て驚いてるんだろうな。」

佐川はさらっとそんなことを言ったけど。
噂って何だ噂って!!

「最近すごいんだぞ、鈴森。お前と上原と神林。なんかすごい三角関係になってるとか何とか。」
「…は?」

三角関係!?

………や、合ってる。
その表現、何気に合ってるよ!!

「忍〜、山口君も。こっちこいよ。」

佐川が手招きすると、倉田と山口が二人並んでこっちにやってきた。

…やっぱり二人とも手にはカシスオレンジを持っている。

「……佐川先輩、鈴森先輩達と友達だったんですか?」

倉田はまだ驚いたような顔をしたままだ。
なんでこんな有名人に会った的な空気に…。

「そ、二年からのクラスメイト。」
「…倉田君と山口君だよね?よろしく。」
「は、はい。宜しくお願いします!あの、君とか付けなくていいですから!」

高橋にもそれ言われたけど…。
何でだ?

「……じゃぁ、倉田と山口で。今回呼ばれたのはこの三人なのか?」
「あ、はい。いつの間にかカバンの中に招待状が入ってて…。」

カバンの中!?
それって、徹の机の中より色々問題じゃないか!?

「…忍。あっちで絵を描いてる人がいる。」
「えっ?どこどこ??」
「あそこ。」
「ぼ、僕ちょっとあっち行ってます!」
「…俺も行く。」

倉田と山口は慌しく走って行ってしまった。
……しかも山口、俺とは一度も目を合わせなかったな…。

「……じゃあ、俺も行ってる。またな。」

なんとなく儚い笑顔で佐川はそう言うと、二人を追って行ってしまった。

「…あれ?さっきの佐川?」
「聖也。」
「佐川も来てたのか…。でもなんかこのパーティー思ってたのと違うよな…もっと知ってる奴がいると思ってたんだけど。」

…言われてみれば確かに…。
気づいてないだけかもしれないけど、同じ学校の奴にはまだ五人としか会ってない。
そもそも主催者にまだ会ってない。

「…なんか変だよな。このパーティー。」

聖也がそんなこと呟くから、俺はとても不安になった。