Halloween party




2.




「なぁ…思ったんだけどさ、○○邸って幽霊屋敷って言われてる所じゃなかったか?」

招待状を手に、俺はふと思い出した事を聞いてみた。
決して怖いとかそういうことではない。

「なんだ海斗、怖いのか?」

だからそうじゃない。
だけど…。

「…いや、なんか目の前のこの状態を目にしたら入るのちょっとためらうというか…。」

○○邸。
もう何年も…噂によると何十年も人が住んでいない上に、時々笑い声が聞こえてきたり、子供が窓から顔を覗かせている姿を見たことがあったりと、曰くつきの建物だ。
おまけに取り壊そうとすると突然地響きが起こったり近くに雷が落ちたりと、なかなか手をつけられない状態らしい。
そして気付けば家はどんどん寂れていき、人は近付くこともしなくなったとか…。

うん。
なるほど、確かに“出そう”な雰囲気はある。
ただ話に聞いていたよりも、見た目は綺麗だ。

「パーティーっていうからには人が沢山いるんだろうなぁ?」

お祭り好きの徹としては気になる所なんだろう。
でもパーティーだからってそうとは限らないと思うけどな…。

「それにしてもよく上原まで来たよな?」
「……よく言うぜ。わかってるくせに。」

徹がふと聖也のほうを向いて言ったその言葉は、俺も思っていたことだ。
聖也はこういうことに好んで参加するタイプじゃないと思ってたんだけど。

「聖也って実はパーティーとか好きなのか?」
「…は?」
「いや、だって特に嫌とか言わずにすんなり参加を決めたからさ。」
「………。」

だからなんでここで徹が笑いだすかな…。
聖也は目を細めて俺を睨みつけるし。
……俺、変なこと言った?

「…ここまで鈍いともう天然記念物並みだ…。」

聖也はそう言うと盛大にため息をついた。
失礼なやつだ。

「とにかく早く中に入ろうぜ〜。」

そして俺をからかうより中に入ることの方が楽しみらしい徹に引っ張られて、俺と聖也はしぶしぶ足を動かした。















「Trick or treat!」
「…は?」

中に入るなり、子供の奇襲を受けた。
と言っても、かわいい仮装をした小学校に入るか入らないかくらいの子供達に手を差し出されただけだけど。
でもTrick or treatなんて言葉を聞くと、やっぱりハロウィンパーティーなんだって感じがするな。
そしてそんな期待の眼差しを俺に向けられても…。

「……えーと…。」
「はい、どーぞ。」

俺が反応に困っていると、徹が躊躇いもなく目の前にいた子供に飴を差し出した。
…どこに隠し持っていたんだ…!!

「そういや俺も持ってたな、飴。」
「えぇっ!?なんで聖也まで!!」

徹はともかく聖也は意外すぎる…!!
そもそも飴なんてキャラでもないだろ…!

「なんか失礼なこと考えてるだろ…海斗。」
「考えてねーよ!てかその飴どうしたんだよ?」
「あぁ…なんかこの前校門に立ってた他学校の女に貰った。」

他学校の…女ね…。
大方また告白でもされたんだろう…。

「…ふー…ん。」

おもしろくない。
告白する勇気もない俺がそんなこと思うのは間違ってるけど。
でもやっぱりいい気持ちはしない。

「相変わらずもてるんだな〜聖也。」
「……でもちゃんと断ったし。」
「…別にいいけどさ…。」

ホントは全くよくないけど!

「………おにいちゃんはー?」

存在を忘れていた目の前の子どもに催促されて、俺は今の状況を思い出した。
そうだったそうだった。
俺なんか持ってたかなー?

「…ないな…。」
「おかしないのー…?」
「あー…。」

なんかそんなショボンとされるとこっちまで落ち込んでくるんだけど…。

「ごめんなー?誰か他の人から…。」
「じゃあいたずらだー。」
「え?」

ショボンとしていたはずの顔を急にぱっと明るくすると、子供達は顔を見合せてくすくす笑い出した。

「いたずらいたずら。」
「おにいちゃんは、いたずらだ。」

そしてそのままパタパタと奥の方に走って行ってしまった。

「…子供にまで笑われてるぞ、海斗。」
「………。」
「おまけに後であの子達からいたずらされると見たね、俺は。」

聖也と徹に代わる代わる言われて、俺は本気で帰りたくなった。
ホントにどうしてあんな小さな子にまで笑いを提供してるかなー、俺は。

「でも、とりあえずパーティは本当にやってるみたいだな!行ってみようぜ〜。」

ウキウキしている徹の後をついて行きながら、俺はふと思った。

「それにしても…さっきの子達、妙に英語の発音良かったな。」















「神林徹様、鈴森海斗様、上原聖也様ですね。お待ちしておりました。どうぞ、中へお入りください。」

少し進んだ先にいた魔女の格好をした女の人に招待状を見せ、俺達は目の前のやたらでかいドアから部屋に入った。
入った途端、賑やかな音楽や話し声が聞こえてきた。
それに加えて部屋の中央には大きなテーブルがあって、その上には豪華な料理が沢山並んでいる。

「……こりゃ、また随分人が多いんだな…。」
「うっわ、楽しそー!」

参加している人達の年齢層は様々だ。
さっきみたいな小さい子もいれば、俺たちみたいな学生、社会人らしき人達、お年寄り…。
一体主催者はどんな人なんだろう。
明らかに金持ちっぽい感じはするけど…。

ぐるりと参加している人達を眺めていると、その中に知っている顔を見つけた。

「あれ?高橋?」
「え?」

そして俺のその声が聞こえたのか、高橋はふっと顔をあげて俺の姿を捉えた。
その顔は驚きの表情に変わる。

「え、鈴森先輩?」
「うわー偶然だなあ〜。高橋も招待されたのか?」
「はい。差出人は誰か分からないんですけど…家に招待状が届いて。」

高橋要。
彼は俺達の学校で“高嶺の花”と言われている存在だ。
その綺麗な容姿と近寄りがたいオーラからそういうあだ名がついたらしいが…実際そんなことはないと俺は思う。
思ったことをスパッという性格は清々しいほどだ。

「あ、それに上原先輩と神林先輩も。こんにちは。」
「久しぶりだなー。」
「……どーも。」

ぺこりと頭を下げた高橋に2人別々の反応を返すと、そのままそっぽを向いてしまった。
な、なんなんだ。

「2人とも結構嫉妬深いんですねー。」
「え、嫉妬?」
「……いえ、こちらの話です。それにしても本当に鈴森先輩の近くには上原先輩がいるんですね。」
「………や、そんないつも一緒にいるわけじゃ…。」
「上原先輩の過保護説って本当なんですねえ。」

誰か俺の話も聞いてくれ。

「要。」

そんな話をしていると、隣からぬっと人が現れた。
ん?
あれ、この人も知ってるぞ。

「先輩。」
「はいこれ。カシスオレンジでよかった?」
「……お酒は飲まないって言ったじゃないですか。」
「こういう時くらいいいだろう?」

あぁやっぱり。
日向先輩だ。
弓道と模試が全国レベルだった上に、高橋とのキスがスクープされた、あの日向先輩だ。
…ていうか、俺達完全にスルーされてる。

「おや?君たちは…。」

そしてなんかわざとらしくそう話しかけてきたその眼は、すごく鋭く光っている。
うぅん…、なんか警戒されてないか?

「……先輩、鈴森先輩と上原先輩と神林先輩です。」

先輩先輩大変だな、高橋。
まぁ仕方ないけど。

「鈴森先輩とは以前年末に会ったじゃないですか。」
「…あぁ、あの時の…。」

どうやら日向先輩も俺のことを覚えていたらしい。

「…お久しぶりです。」

とりあえず挨拶はしてみたけど、日向先輩の目の鋭さは変わらなかった。
俺何かしたかなぁ?

「……先輩、なんでそんなガン飛ばしてるんですか。」

高橋…!
今お前のこと一瞬尊敬したよ!
この眼の恐ろしさを前にすぱっと言い切ったな…。

「要?これはガンじゃなくて、牽制してるの。」
「同じことです。それにこの人達に何を牽制するんですか。」
「要に近づくなよって、牽制。」

…えぇーと…。

「日向先輩?あまり海斗に絡まないでください。」

隣で大人しく俺達の会話を聞いていた聖也が、ここで突然声を出した。
何故か俺の頭の上に手を置いて。

「……聖也?」
「ちょうどいいところに頭があるもんで。」

そうじゃなくて…。

「…あぁ、そういうことなんだ?」

そして日向先輩は何かを納得している。
え、何。
この状況を見て一体何を納得したんだ!?

「俺と要みたいなものなのかな?」
「いえ、多分その前の段階なんだと思います。」

日向先輩と高橋の話はさっぱりわけ分からないし…!

「……成程。」

日向先輩は更に何かを納得すると、さっきの鋭さを消して聖也に向きなおった。

「日向先輩?なんで俺をそんな憐れみの目で見るんですか。」
「いや、なんか君がこれから苦労しそうに思えてね。」
「………すでにしてます。」

はぁとため息をつく聖也と、その聖也を励ますように話をする日向先輩を見て、何故か高橋は笑っている。
……高橋と徹ってこういう所が似てるよな。
あれ?
そういや徹はどこ行った?

きょろきょろ辺りを見渡した先で、徹は一足先に食事をしていた。