Halloween party




1.








ハロウィン。
それは万聖節の前晩に行われる伝統行事。
人は自分の身を守ろうと様々なことをしてその日を過ごす。


…その日は、この世とあの世の境目が曖昧になると言われている…。










「おーい海斗〜。」

中庭の芝生の上に寝転がりながらうとうとしていた俺に届いたそれは、徹の声だった。

「ん〜…?」
「お前寝すぎだ起きろ!」

べしっと勢いのまま俺の頭を叩き、奴はそのまま俺の隣に寝転がった。

「あ〜、でもここ気持ちいいな〜!」
「……なんだよ徹。いきなり頭叩きやがって…。」
「海斗って、寝起きだといつも以上に口が悪くなるよな〜。」
「普段からそんな悪くないだろ。」
「そんなことよりさ!」
「だから何だよ!」

こいつの話の飛び方はついていけない…。
まだ頭が完全に覚醒してないせいもあると思うけど。

「これこれ!」
「……これこれ詐欺?」
「…つまんねぇよ海斗。」
「悪かったな。で?何だよ?」
「だから、これこれ!」

意味のない会話を楽しみ(?)ながら徹が差し出してきたものは封筒だった。

「封筒?」
「そ、封筒。」

頷く徹は大真面目だ。

「……徹。俺はこれでも忙しいんだ。そういうことは後にしてくれ。」
「忙しいって、寝るだけだろ。」
「睡眠不足なんだよ。」
「問題なのは封筒じゃなくて中身だって!」

どうあっても俺に見せたいらしい徹を見て、俺はその日の昼寝を早々に諦めることにした。
こうなった徹は何があっても自分の用事を押し通すだろう。

「だから中身ってなに。」
「招待状。」
「……招待状〜?」

言いながら封を開けて、徹は俺にその中身を見せた。
確かに招待状と書いてある。
ざっと見てみると10月31日にパーティーを行うので来てほしいといった内容が書かれている。
おまけに最後には何故か俺と聖也の名前まで…。

「……何これ。」
「だから招待状だって!」
「や、聞いてるのはそういうことじゃなくて…。」

主催者とか何のパーティーなのかとか全く書かれてないんだけど…。

「俺の机の中に入ってたんだよ。」
「机の中ぁ?」

てことは、学校内の奴が入れたって事か?
………。

「えぇ〜…余計怪しくないかそれー…。」
「海斗でもそう思うか。」

『海斗でも』ってどういう意味だ。

「ま、でも逆にそんな変なもんじゃないってことだろ。10月31日ってハロウィンだろ?」

あ、そっかハロウィンか。
じゃあそのパーティってのはハロウィンパーティーって事か?

「……まさか男だけでハロウィンパーティーするってわけじゃ…。」

なんたって、ここ男子校だしな…。
その可能性はゼロではない気がする…。
そんなことをボソリと呟いたら、徹の雰囲気がふっと変わるのが分かった。
それも、あまりよろしくない空気に。

「……徹?」
「ふぅん…。海斗は女の子がいたほうがいいんだ?」
「え?いや、だってむさ苦しい男だけでやるよりは…。」
「俺は海斗がいればそれでいいけどな。」

…ん!?

「え、えぇと…徹?」

何故か身の危険を感じて俺は隣に座っていた徹から少し距離を開けた。
だって、なんか、近づいてきてる!!
そんな俺に気づいたのか、徹は口の先を少し上げた笑みを浮かべて顔を近づけてくる。

「…なんで逃げるんだよ?」
「何でって…ち、近い近い近い!」

ずりずり逃げていた俺の背に、硬い何かが当たった。
…桜の木だ。
徹は両手をその桜の木について、俺を見下ろしている。

……や、やばい。

「と、徹、もうすぐ昼休み終わる!」
「まだあと10分あるって。」
「ていうかホント近いから顔!」

なんとかここから抜け出そうとしている俺を楽しそうに見ながら、徹は耳元に口を近づけて一言、囁いた。

「……海斗。」

うわっ!!

今、なんか背中がぞくっとした。
それは悪寒とかそういうものではなくて…。
むしろ…。

「……顔赤いぞ。」

…むしろ……。

「…海斗から離れろ。」

不意に徹の後ろから声がした。
徹が壁になって見えないけど、この声は聖也だ。
しかもなんかとてつもなく不機嫌な…。

「あーあ。残念。」

本気なのか冗談なのかよく分からない口調で徹はそう呟くと、やっと俺の上から体をどけてくれた。
…助かった…。

「こんなところで何やってんだ。」
「何って…。見たまんまだけど?」
「……。」

また2人の静かな言い合いが始まるのかと思い、じりじり逃げる準備をしていた俺をちらりと見て、徹は話をがらりと変えた。

「あ、そうだ。ちょうどいいところに来たな上原。海斗とも話してたんだけどこれ。」

徹は例のパーティーの招待状を聖也に渡した。
突然渡してもわけわからないと思うけど…。

「なんだこれ?」

あぁ、やっぱり。

「いつの間にか俺の机の中に入ってたんだよ。多分ハロウィンパーティーだろうって海斗とは話してたんだけど…何故か俺たちの名前しか書いてないだろ?ちょっと怪しいな〜と思ってたんだ。」
「……誰かの悪戯とかだろ?どうせ。」

まぁそうだよなぁ。
でもその割には封筒も招待状もしっかりしたもんなんだよなぁ…。

「でももしホントだったら楽しそうじゃねぇ?」

目をきらきらさせて言う徹はもう行く気満々じゃないか…。

「…俺パ…。」
「海斗も行くよな?」

……。

「いや、俺は…。」
「いくよな?」

そ、そんなキラキラした期待の目で見られたらパスするなんて言いにくいじゃないか…。

「…………い、」
「い?」
「…………………行く……。」

小さい声で答えた俺に、徹はにやりと笑い、聖也は大きくため息をついた。










 10月31日、17時より○○邸にてパーティーを行います。
 ご都合がよろしければ是非ご参加頂きたく、この招待状を送ります。

 なお、これは以下の3名の方への招待状となります。

 では、心よりご参加をお待ちしています。

                神林徹様 鈴森海斗様 上原聖也様