A true feeling




1



分かっている。
俺はあいつにとってただの友達で。
あいつが好きなのは女の子。
柔らかくて小さくて、守ってあげたくなるような、そんな女の子が好きで。






「……。」

目が覚めたらベッドの上にいた。
確か寝る前はソファーの上にいたはず。
家に着くなりあいつに押し倒されて服を脱がされて。
そのまま2回はソファーの上でやった記憶はある。
でもその後は真っ白だ。
気を失った俺をベッドまで運んでくれたのだろうか?
……あいつが?

「…いっ…。」

とりあえず体を起こそうと力を入れた瞬間、全身に痛みが走った。
手加減も何もあったもんじゃない。
もしかしたら俺が気を失った後もやってたんじゃないだろうか。

「……はぁ〜…。」

動くのは諦めて、俺はベッドの上に体を預けた。
今日が日曜日でよかった…。
あいつ……亮太(りょうた)とこういう関係…いわゆるセフレになったのは今から7年前。
俺も亮太もまだ高校生だった頃だ。

俺はその頃から亮太が好きで、でも心地よいあの友人関係を壊す事はしたくなくて、自分の気持ちを伝える気なんてこれっぽっちもなかった。
だから亮太が可愛い女の子と付き合い始めても、俺にその彼女を紹介してきても、俺はいつも笑顔で祝福してきた。

そんな関係が崩れたのは文化祭の打ち上げ。
ちょっとした手違いで、亮太が酒を飲んで酔っ払ってしまった。
足元も覚束無い彼を俺が家まで送っていったとき、突然亮太が俺に覆いかぶさってきた。
その日、亮太の両親は旅行に行っていて家には誰もいなかった。
彼のその行動を止めてくれる人は誰も居なくて。
俺は突然の事に硬直してしまった。
はっと我に返ったときにはもう亮太を押し返す事ができない状況にまでなっていて、結局その日彼と最後までしてしまった。
次の日、先に目が覚めた俺は亮太にどんな顔をすればいいのか分からなくて、彼が目を覚ます前に家に帰った。

それから彼は時々俺を抱くようになった。

度々俺を呼び出しては部屋に連れて行き、何回したか覚えてないほどいかされ、気付いた時は朝だったなんて事は当たり前になった。

大学生になり、俺が1人暮らしを始めた頃からは頻繁に訪ねてくるようになり、入り浸るようになった。

そしてそんな関係は社会人になった今も続いている。

でも。

「…そろそろ潮時だよな〜…。」

亮太には2年前から結婚を前提に付き合っている彼女がいる。
その事を亮太から聞いたときは、さすがに言葉が出なかった。
自分がショックを受けてる事に、さらにショックを受けた。

分かってた事じゃないか。
亮太にはいつか彼女が出来て、結婚をして、幸せな家庭を作る。
俺では絶対に出来ない事を、亮太にはして欲しい。
ずっとずっとそう思ってきたことじゃないか。

そっか。
うまくいくといいな。

なんとかそう言った俺に、不思議な顔をしながらも亮太はありがとうと言った。

それからその彼女の事は何も聞いてない。
でも時々亮太から香水の香りがしてくることがある。
だからきっと、うまくいっているんだろう。

幸せになって欲しい。
だからこそ、俺とのこんな関係は早く終わらせなければいけない。

「…笑って、祝福して…。きっと結婚式では挨拶なんかもしなくちゃいけなくて…。」

想像してみる。
亮太の隣にはあの、綺麗な女の人がいて。
2人は皆に笑顔で迎えられている。
そしてそのうち子供が生まれて…。

そんな姿は容易に想像できるのに。
そこに自分がいる場面は全く想像できない。

「…つまり、そういう事なんだろうな…。」

分かっている。
だから俺は、いつまでたってもこの関係をやめることが出来ないんだ。




この関係を止めてしまったら。
きっともう…。

亮太と会うこともなくなるんだろう。




「……違うな、そうじゃない…。」

俺が、亮太に会うのがつらくなるから…会えなくなるだけだ。


「………俺はいつまで、この関係に耐えられるのかな…。」

亮太と一度、寝てしまったあの時から…。
こうなることは分かっていたのに。










「あれ。瑞貴(みずき)まだ寝てたのか。」

亮太が帰ってきて一言目に発した言葉がこれだった。

「…………お前…それはないだろ…。誰のせいで一日動けなくなったと…。」
「あぁ、悪い悪い。」

全く悪びれることもなくそう言うと、亮太は冷蔵庫からビールを取り出した。

「…それは俺のだ。」
「細かいことは気にすんな。」
「つーか、お前たまには実家にも帰れよ。」

ここんとこ毎日俺のアパートにやってきては酒を飲んだり俺を抱いたりと、全く家に帰る気配がない。
それどころか彼女と会っているのかどうかも怪しい。

「ん〜…。まぁいいじゃん。」
「…実家はともかくとしても彼女とはちゃんと会ってんのかよ?」
「……会ってるよ。」

胸に痛みが走るのはこういう時だ。
自分で聞いておきながら聞いたことを後悔してる。

「…なぁ、瑞貴。」
「なに…。」
「………いや…。俺のことよりさ、お前はどうなんだよ?彼女とかいないのか?」

―――……。

「…彼女は…いないよ。」
「彼女“は”?」
「細かいな。付き合ってる人なんかいないよ……ただ…。」
「ただ?」

「………好きな人は、いる…。」

その時の亮太の表情とか、動きとか、見るのが怖くて顔は上げられなかった。
だって笑顔で頑張れよ、なんて言われたら…。

「…へぇ〜…そう、なんだ。」
「……何だよ。」

ちょっと気の抜けた様な返事が返ってきて、俺は反射的に顔をあげた。

そしてそこで見た亮太は、想像していたどの表情とも違っていて。

「……亮太?」
「何。」

どうしてそんな…怒ったような顔をしてるんだ?
どうしてそんな…。

「………俺、今日は帰るわ。」
「あ、あぁ。」

怒ったような、悲しいような、そんな顔を…するんだ?

「じゃあまたな、瑞貴。」

そう言って亮太が部屋を出て行っても、俺はしばらくドアから目を離すことができなかった。







そして、その日から亮太が俺の部屋を訪ねてくることはなかった。










そして一週間後。
俺のもとに、亮太から結婚式の招待状が届いたんだ。